シューマンといえば、どんな曲を思い浮かべますか?ピアノのために書かれた小曲集・組曲や歌曲はとても有名です。
では、シューマンの後期・晩期の作品と言えば何があるでしょうか? 3つのヴァイオリン・ソナタを含め、ミサ曲、レクイエム、その他にも様々な作品をシューマンは書き上げています。46年の短い生涯の中でシューマンは重い精神病を患いながらも、病と戦いながら創作活動を続けました。人が年を重ねるごとに深みが増していくと同様に、作曲家も表現するものがより深く、複雑になっていきます。後期・晩期の頃には、独特のユーモアに加え、何とも言えない感情と心の奥深くからこみ上げてくる憂鬱さ、彼の特徴である繊細さが混ざり合った壮大な作品が多くみられます。これらは、シューマン作曲の集大成と言えるくらい聴きごたえのある傑作ばかりです。
しかし、現在ではシューマンの後期・晩期の作品は、ほとんど演奏されることなく、作品の存在すらあまり知られていません。その理由として、音楽学者の中にはシューマンの病が作曲能力の低下させたためとし、作品の価値さえないと扱う人も多くいます。
天才と言われた人は常に狂と紙一重の精神状態で、ほとんどの人がどこかしら普通の精神ではないというのは、どの分野でも同じことが言えます。 現在、天才と認められている作曲家の作品はどんな精神状態で書かれた曲であろうと、Master piece-傑作として扱われているのに対し、「なぜシューマンに限って精神病者のレッテルが貼られたまま、彼の作品は作品の存在すら忘れ去られているのだろうか」と、このような扱いを残念に感じました。
シューマンが作曲を本格的に始めたのは法律の勉強をするために大学に進学してからです。有名なピアノのために書かれたシューマンの作品は殆ど、この若かりし頃に書かれました。遅く音楽の道に入ったとは言え、歴史に残る名作をサラッと書き上げたのですからシューマンは「天才」であったとしか考えられません。
私は、シューマンの晩年の作品の存在を伝えるべく、ヴァイオリン・ソナタ第3番を例とし論文を書き、その中で「作品は演奏されなくてはいけない」と言うことを述べました。 最近は少しは違ってきているのかもしれませんが、コンサートではブラームス、ショパン、ベートーヴェンなど有名な作曲家のなじみの曲がover played (弾かれ過ぎ)と言ってもいいほど繰り返し弾かれています。 Master pieceであるから弾き続けられていることには違いありませんが、皆様に、音楽の楽しみ方は他にもあると言うことを知って頂くことができれば、初めての曲も興味を持って鑑賞することができると思います。
私の経験からですが、有名な作曲家の知られざる曲をコンサートで演奏すると、観客の皆様からとても新鮮なの反応がありました。「こんなに素晴らしい曲を書いていたなんて全く知らなかった!!」と、とても興味を示してくださったり、「同じ作曲家の他の曲をもっと知りたい!」と情熱を燃やされている方もおられました。
シューマンの後期・晩期の作品も、このように地道ではありますが、コンサートで演奏されるごとにコンサートの一般的なレパートリーになっていってくれれば、と願っております。
2010年9月
とみなが いつこ Mansoon B.